ATMの手数料を考える

銀行の手数料について考える



久々に旅行でもと、ある大手旅行会社のサイトを開いた時のこと。

その会社では旅行に関する窓口相談で「相談手数料」の名目で料金を取るとの記載があり、
わが目を疑ったのですが、その後確認したところ現在は取っていないようです。
弁護士等の相談では30分幾らなんてよく聞く話ですが、ついに旅行会社までと一時は呆れはてた次第です。


こうした傾向は恐らく近い将来、どんな業態でも当たり前になってくるのではと、今から懸念しています。

例えば、先般コンサートのチケットをネットで購入したところ、システム利用料なる訳のわからない料金が加算されていて、更にはチケットのコンビニ受け取りで発券手数料まで取られる始末です。


Gerd AltmannによるPixabayからの画像


以前なら、コンサート会場の受付窓口へ取りに行けば料金は掛からなかったのに、今はそうした受け取り方はなく、一方的に廃止されてしまったようです。
顧客を無視したこうした対応はいたるところで行われています。

すべての操作を客に任せ、尚且つシステム利用料、発券手数料まで客に負担させるという、何とも不条理な構造には納得いきません。



かと言って、わたしはすべての手数料を否定している訳ではありません。

例えば、ネットでの買い物で支払う配送手数料。
これなどは、猛暑の中あるいは雨風の中、重い荷物を配達する配達員の苦労を思うと頭が下がります。私たちが支払う配送手数料のすべてが彼らに還元されるなら、配送手数料は大いに結構だと思っています。


これに対して、前述のチケット販売における諸々の手数料やこれからお話しする銀行系の手数料関係はあまりに高いです。さらに、現在の手数料が妥当かどうかの設定根拠も明らかになっていません。
そもそも手数料の実施経過を遡ってみれば、矛盾だらけで本末転倒であることがわかるでしょう。そこでこの手数料問題について、わたしのわずかな金融機関経験を基に、若干の見解を述べておきたいと思います。


銀行を取り巻く環境変化と手数料問題


現在、銀行の手数料体系は実に複雑です。例えばATMの手数料だけを見ても、同一銀行間、他行間、あるいは利用する時間帯、曜日等でそれぞれの銀行が独自の手数料体系をもっています。そのため、ここでは各銀行の詳しい金額体系は掲載できませんが、各銀行の無料時間帯、曜日以外では110円から220円の手数料がかかっているようです。


昔は一部金融機関を除いて統一されていたのですが、1970年代中頃から始まった欧米での金融市場改革、いわゆる金融ビッグバンの影響で日本の金融業界でも自由競争が始まり、その影響を受けた訳です。

この頃から、日本の金融業界が長年とってきた「護送船団方式」は崩れ、各銀行は世界の荒波に単独で立ち向かわなければならない時代になったのです。一国だけでの金融市場は通用しなくなっていった訳です。

これが金融のグローバル化の始まりで、日本の金融機関は否応なしにその荒波にのみこまれていきます。

銀行の合併(メガバンク化)が盛んに行われ、連日マスコミを騒がせたのもこの時期でした。


Gerd AltmannによるPixabayからの画像


金融のグローバル化により打ち出された対応策の一つが、各種手数料の見直しだったのです。

自由競争ですから、建前は各銀行が独自の手数料金額を設定できた訳ですが、当初は各銀行は横並びの金額だったように記憶しています。

現実的には、どこの銀行も思い切った金額を打ち出せなかったと言うのが実情だったのでしょう。(極めて日本的な現象と言えます)

住宅ローンや各種ローンの金利体系も、手数料体系同様にどの銀行もほぼ横並びだったのです。


言わば「名ばかりの自由競争」だったのです。こうした現象は日本的といえばあまりに日本的だった訳ですが、さすがに時の経過とともにそうした横並び的傾向は崩れていきました。

ですから今ある複雑な銀行の手数料体系・金利体系はそんな紆余曲折があっての結果と言えます。


銀行のATM機器とATM手数料は如何に導入されてきたか


次は、銀行がATMの手数料を取るに至った経緯について触れておきましょう。
時代はグローバル化のはるか昔に遡ることになります。

この辺りの背景を知ると、現在のATM手数料が如何に不条理で、納得いかない制度であるかが認識できるでしょう。


実は、筆者はかつて某金融機関の一職員でした。
そのため金融機関のATM(オートマチック・テラー・マシン)導入に際し、リアルタイムに携わってきた当事者の一人です。

ですから、この問題に関しては懐かしい思い出も多々ありますが、苦い経験もいりまじり胸中は複雑です。


わたしが勤めていた某金融機関は中小でしたから、ATMは大手銀行よりはだいぶ遅れた導入でした。

恐らく1980年代初め頃だったように思います。その頃は従来の現金支給だったサラリーマンの給与が銀行振込(給与振込)という支払い形態にシフトしていった時代ですから、給料日以降サラリーマンは銀行から現金を引き出さなければ、何も買えなかった訳です。



Guiliano Rangel Alves Guiliano RangelによるPixabayからの画像


そのため、給与支給日には銀行窓口は支払い業務に追われ、店頭は大混雑、大混乱した訳です。そんな時、救世主の如く出現したのがATMという現金支払いマシンです。
このマシンは窓口職員の代わりに支払い業務を専門に引き受けてくれた訳です。
言い換えれば、ATMは窓口業務の「お助けマン」的存在だった訳です。
そのことは現在も変わっていないと思いますが・・・

このように、銀行はある意味、業務の効率化や人員削減として機械化していったことがわかります。窓口職員を減らすことができ、支払い業務を顧客に機械操作させて、業務を完結できたのですから一石二鳥、当初の目標は想定以上に達成できた訳です。

ですから正直なところ、この時代の銀行は顧客から手数料を取るという意識・感覚はまだなかったように思います。
無料ということで顧客の方もその手間(給料日に現金を下ろすという煩わしさ)についてはとり立てて問題視しなかったのでしょう。

それが、現在では顧客に操作すべてをやらせておきながら、手数料まで取るということですから、何とも虫の良い話ではありませんか。
本来の道理から言えば、顧客の方に手間がかかっているのですから、事務手数料は顧客の方がもらいたいくらいです。


銀行の手数料と住宅ローン金利


Ricarda MölckによるPixabayからの画像


そもそも、銀行がこうした手数料に目をつけ拘るようになったのは、日本が低金利政策をとってからのことです。それまでは銀行の主力収益源だった企業向け貸出や個人への住宅ローンの貸出金利は高金利(現状に比べて)で運用できていたので、手数料などに注目する必要はなかったのです。大量の貸付から発生する「利ざや」で十分利益を得ていたからです。

ところが、世の中軒並み貸出金利が低金利化するにつれ収益は大幅減少したため、注目されてきたのが、海外への市場拡大(タイやベトナムなど)や各種手数料の見直しだった訳です。

こうしてみると、銀行ばかりが悪いように思われがちですが、同情の余地もある訳で、昨今の住宅ローンの金利相場を調べてみると、当原稿を書いている(2023年3月)時点ではおよそ下記のような金利になっていて、ローンでの収益だけでは厳しい状況は想像できます。


変動金利:0.375%〜0.390% 0.475%

10年固定:0.800%〜0.830% 1.080%(10年)

全期間固定:1.245%〜1.310% 1.680%(25年)


※2023年2月ごろまでは上記左側の金利でしたが、3月時点でみると各銀行は上記右側の金利(多少の金利幅あり)へ利上げしています。




ちなみに、住宅ローンが固定金利しかなかった頃(住宅ローンは当初は固定金利制からスタートし、実施期間も長かった)、わたしの記憶では固定4%前後の金利(※注1)が長いこと維持されていて、おそらくそれくらいの金利相場であれば銀行も十分に住宅ローンで収益確保ができていたのだと思います。

※注1:固定金利は貸付時点の金利が適用されるため、例えばAさん、Bさんの借り入れ時期が異なれば適用金利は異なります。そのためAさんの金利(例えば4%だった場合)は完済まで変わることなく4%が適用されます。Bさんの金利(例えば4.1%だった場合)も同じく完済まで4.1%が適用されます。


ですから、現状では各種手数料に頼らざるを得ないのは理解できますが、繰り返されるシステム障害や経営不振の時に顧客にばかり皺寄せが回ってくるのはどうかと思います。

今回はATM入出金の際の手数料について述べてきましたが、実はわたしたちが何か商品を購入したときや、各種契約を結んだ際に後日支払う時に利用する振込というサービス。
ここでも実は『振込手数料』という名目で手数料がかかっています。
例えば、高校や大学の入学金などを銀行の振込制度を利用して支払った場合、間違いなく振込手数料はかかっています。具体的な金額は各銀行で様々なので申し上げられませんが、恐らく500円〜1,000円の間の金額は取られていると思います。

ですから、ATM手数料より振込手数料の方がズッと高いので、こちらの方がむしろ問題なのですが、現状(2023年3月)、公正取引委員会などが金融機関に対して振込金額の金額区分(3万円以上か3万円未満かの区分)や手数料金額の妥当性など、サービス関連の改善を求めている段階のため、ここではその動向を見守っていくに止めておきたいと思います。

金融機関にはそうした体質改善と自助努力、経営努力に励んでいただきたいところです。



ところで、ATMの問題でも触れましたが、わたしたち顧客に機械操作をさせるという傾向、
実はわたしたちの身の回りのあらゆる場所で既に行われていることにお気づきでしょうか?

例えば、コンビニや大手スーパーのレジでは、お客がレジ担当のようなものです。液晶画面を操作し全ての決済をお客が行なっているのですから。


Oberholster VenitaによるPixabayからの画像


自然環境保護の一環として、プラごみの削減が叫ばれレジ袋(プラごみとして)は有料になり、どうしたことか紙袋まで有料化され、レジ係まで担当するという有様。

どこか先ほどのATMの問題と共通しているように感じませんか?
そして、テレビのコマーシャルのように、そうしたことが意識しないまままま慣れっこになって行くのです。


思い返せば、すべては繁忙時の職員増員を避けるための合理化案だったATM、それが何時しかATM本体の運営管理費(ランニングコスト)まで実質的に顧客が負うという現状。

銀行は職員を増やさなくても業務は回り手数料まで入るという「タナボタ」状態、一方の預金者は操作負担が増え手数料まで取られるという「踏んだり蹴ったり」状態。
なんと不条理な世の中でしょう。

これからの世の中、ますますこうした傾向は強くなると思います。

最近のわたしたちを取り巻く環境、どこか奇異な感じがしませんか?


JDA 2023.03.24


追伸

この際、序でながら申し上げると、

スーパーやコンビニのセルフレジに関してですが、これについては甚だ不快な思いを何度も味わっているところですが、要望としてレジ(機械)の統一化を図っていただきたいと思います。

なぜなら、レジの画面やお札の挿入口など、その店によって異なるため、お客としては操作に幾分戸惑うことがあるからです。
そんなとき優しく教えていただければ幸いなのですが、何もせず「なぜできないの?」と言った上から目線で眺めているだけの店員が一部いることに腹が立ちます。

それぞれの店でレジが違うと、こちらも操作を覚えきれません。
レジ(機械)の統一化を要望しましたが、実現に無理ということであれば、
どうか、前述の事情も理解していただき、せめて思いやりのある接客を心がけていただきたいとところです。

昨今はコロナの関係で、購入商品の袋詰めもセルフですから、荷物が多い時の買い物は一層気を使います。


最後までお読みいただきありがとうございました。



 

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