名曲紹介、こんな名曲がこのアルバムに・・・ :井上陽水「招待状のないショー」

2025年1月30日木曜日

ガロ ハイファイセット 井上陽水 学生街の喫茶店 吉田拓郎 荒井由美 小室等 泉谷しげる

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 あれは確か大学2年の時だったと思いますが、それまで経験したことのないような出来事というか現象がわたしの目の前で起きたのでした。それは自身が通う大学近くの行きつけの喫茶店での出来事でした。
当時はスタバのような大型の店舗は少なく、個性豊かな喫茶店が大学周辺に散在していました。そう、ガロの「学生街の喫茶店」に近い雰囲気だったでしょうか。
どの店も会話を邪魔しない程度のボリュームで、有線放送をBGMとして流していました。

そんなある日、その出来事は起こりました。
ランダムに流れる有線放送のBGM。その流れのなかにギターイントロのあと「さびしさのつれづれに・・・」と続く歌詞の曲が店内に流れたのです。

その曲が流れた瞬間、周りの人たちの会話は止まり、もちろん自分たちのおしゃべりも止まりました。
そのとき一瞬、時が止まったように静まりかえったのをわたしは覚えています。


しばらくの沈黙の後、どこからか「これ、だれの曲?」といった囁きがあり、ようやく周りの状況は普段に戻ったのでした。
確かに、あれ程にインパクトがある曲をそれまで聴いたことはなかったので、まさに衝撃的な出来事だったと言えます。
もうお分かりですね、その曲とは井上陽水の「心もよう」です。


Eva MichálkováによるPixabayからの画像

これまで、クラシックの曲のなかには、グリーグのピアノ協奏曲、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲そしてチャイコフスキーのピアノ協奏曲、弦楽セレナーデなどドラマチックな出だしの楽曲に衝撃を受けたことは何度かあったものの、ポップス系ではCCRの「I Put a Spell On You」以来の経験だったように思います。

そんな印象深い陽水の「心もよう」ですが、今回お話しするのはこの曲ではありません。
「心もよう」はあまりに有名すぎて、このシリーズでは相応しくありません。

今回ご紹介するのは、1976年にリリースされた井上陽水5枚目のアルバム「招待状のないショー」のタイトルにもなっている2曲目「招待状のないショー」という曲です。

確かに、わたしにとってこの曲は忘れられない曲であり、陽水の中で一番好きな曲です。
一般的に、陽水の話題になったとき、出てくる曲と言えば、前述の「心もよう」であり「傘がない」であり「いっそ セレナーデ」などだと思います。恐らく、「招待状のないショー」をあげる人はほとんどいないと思います。

そんなマイナーな「招待状のないショー」という曲ですが、この曲に纏わる思い出はいくつかあるのですが、残念ながら苦い思い出だけが記憶に残っています。苦いと言えばご察しのとおり「失恋」あるいは「失恋にちかいもの」だったのですが、それでも不思議と愛着を感じます(苦笑)。



AlexaによるPixabayからの画像


さて、わたしの個人的な苦い思い出はさて置き、そろそろ本題に入りましょう。

この「招待状のないショー」というアルバムは、「青空、ひとりきり」や「Good,Good-Bye」がシングルとして先行リリースされていて、その2曲を代表曲として全13曲で構成されています。そして、実はこのアルバムは、どの曲もシングルカットできるくらいレベルの高い曲ばかりで、名曲満載のお買い得アルバムなのです。

いや、訂正いたします。陽水の初期のアルバムはすべて名曲揃いで、ビートルズのアルバム同様に駄作はありませんでした。

そして、このアルバムは、陽水が小室等、泉谷しげる、吉田拓郎らと設立したフォーライフ・レコード移籍後の第一弾としてリリースされた節目のアルバムでもありました。
曲調もこれまでのフォーク系からロック色が強まり、ミュージック路線としてもターニングポイントだったように思います。


オリジナルアルバム5作目の「招待状のないショー」


実は、わたしが社会人になり初任給ではじめて買ったアルバム(LPレコード)がこの「招待状のないショー」でした。発売前からラジオでこの曲は聞いていて、絶対に買いたいと思っていたのですが、発売までがとても待ち遠しかったことを覚えています。

実際、こうした「待ち遠しい」という思いは最近ではほとんど味わえなくなってしまったように思います。果たしてそれは自分自身の感受性が劣化したのか、それともそれに見合った魅力ある楽曲が少なくなったのか。
いずれにしても寂しい思いであることに変わりはないのですが・・・

そんな名曲満載の「招待状のないショー」というアルバムの中で、わたしを最も惹きつけたナンバーがアルバムタイトルにもなっている「招待状のないショー」なのです。

作詞、作曲は勿論、井上陽水によるものです。
参考までに、「招待状のないショー」の歌詞を以下に記しておきます。

誰一人見てない僕だけのこのショー

好きな歌を思いのままに

招待状のないささやかなこのショー

恋を胸に闇に酔いつつ

声よ夜の空に星に届く様に声よ

変らぬ言葉とこの胸が

はるかな君のもとへ届く様に

 

カーテンコールさえ僕の気持ち次第

一晩中歌うのもいい

声よ夜の空に星に届く様に声よ

変らぬ言葉とこの胸が

はるかな君のもとへ届く様に 


例によって、彼の詞は語数が少なく、それでいて抒情性が豊かすぎるため、歌詞の内容を読み解くのが非常に難しいと思います。本来、芸術作品とは、聴く人の自由な受け取り方に任されていいのでしょうが、この歌詞に関しては陽水の本意も覗ってみたいところです。

邪道ながら、拙いわたしの解釈を紹介すると以下のようになります。

主人公は心ひそかに思っていた女性と何らかの理由でいまは離れ離れにいます。そして、その恋は片思いです。そのことは「招待状のない〜」という歌詞から読み取れます。
小心者の主人公は彼女が近くにいた時は胸の内を明かせないままでした。
そのことをいつも後悔していたのでしょう。
そんなある夜、一大決心のもと「恋の告白」という孤独のショーをひとり開催します。
そして主人公の思いの程度は、繰り返される「変わらぬ言葉とこの胸が」の歌詞と旋律と陽水の熱唱から充分に伝わってくるのです。
これは紛れもないラブコールの曲なのです。

以上がわたしの勝手な解釈ですが、的外れでしたらお許しいただきたい。


1976年という時代背景を考えた時、わたしの解釈のようなセンチメンタリズムが若者の中に確かにあったような気がしています。控え目であることが、恰も美徳であるかのように思われていた時代だったからです。

ちなみに、ハイファイセットのヒット曲「スカイレストラン」はそんな時代にあって、チョッと強気の女性を歌った当時としては珍しい曲だったと思います。
作詞家の心情に時代に逆らうプロテスト的精神があったかどうかはわかりませんが、作詞はあの「荒井由美」と知り、さすがと頷けました。
世の常識とは常に一線を画したユーミン(当時は荒井由美)の世界観(パーソナリティー)がよく出た歌詞だと思います。


「スカイレストラン」が入っているHi-Fi SETの
アルバム「Hi-Fi BLEND」



恋愛というシチュエーションに於いて、相手に想いを伝えることに関して、いまの時代の若者男子は「どうなんだろう?」と考えても、わたしのようなオッサンには想像すらできないのですが、昭和の香り漂うセンチメンタリズムもそこそこあっても良いような気もします。

そんな訳で、この「招待状のないショー」という曲は、当時のニューミュージック路線にあって、もっともその時代を象徴している曲ではないかとわたしは思っているのです。
そして、井上陽水の数あるラブソングのなかでも、際立った一曲として位置付けられるべきと個人的には思っています。

最近、「井上陽水のベストシングルは?」というアンケート調査で「少年時代」がトップだったことを何かのマス媒体で見かけました。
確かに「少年時代」も陽水の傑作であることに異論はありませんが、「招待状のないショー」の方はシングルカットされなかったという大きなハンデがあり、「もしシングル盤が発売されていたら」と考えると興味深いところです。

一般的に、陽水のベスト盤と言われているアルバムの収録曲を調べてみると「招待状のないショー」はわたしの知る限り入ってきません。そのことがわたしとしては非常に不本意であり残念でなりません。

しかしながら、そうした不遇の曲を採り上げるのがこのシリーズなので、ベスト盤に入っていないのが当然なのですが・・・


Anindita Erina KhalilによるPixabayからの画像


わたしたちは普段、ふと口ずさむ曲を何曲か持っているのではないでしょうか。
かと言って、具体的に曲名を列挙しろと言われても、すぐに出てこない程度の他愛ない曲たちなのですが、今回紹介した「招待状のないショー」はそのなかでも別格で、ずっと昔からわたしの脳裏に焼きついていて、思わず口ずさんでしまうそんな一曲でした。

このことはわたしが特別なのかもしれませんが、社会人になって初めての給与でこのアルバムを買った、あの時点から続いている無意識の習癖なのでしょう(笑)。
それと、井上陽水のメロディー(旋律)に関して、予てから感じていたことがあって、そのことが微妙に影響しているのかもしれません。それは彼の曲をはじめて聴いたとき、まるで以前に聴いたかのような錯覚、俗に言うデジャブ的体験をしたかのような思いになります。
そうしたことが陽水の楽曲にはいくつかあるのです。
「少年時代」や今回の「招待状のないショー」「枕詞」「結詞」などがまさにそう感じた曲なのですが、それ故に親しみやすく懐かしく思えるのです。

彼の音楽は4分ほどの短い曲でありながら、曲調の変化があり、美しい旋律が必ず織り込まれています。そして恐らく彼のメロディーラインには童謡や文部省唱歌に通ずるエッセンスがあるのかも知れません。

そんな訳で、この「招待状のないショー」という曲は、間違いなく後の時代に受け継がれる名曲だと思っています。その証拠に、いま聴いてもおよそ半世紀前の曲とは思えないほどの完成度で、古さをまったく感じないのです。過去の数多のヒット曲の中には、「あの時代だったからヒットしたけれど、今聴くとチョッとナ〜」と感じるヒット曲も少なくありません。このアルバムをお持ちの方は、「青空、ひとりきり」だけでなく、「招待状のないショー」もそんな視点で是非聴き直してみてください。

最後までお読みいただきありがとうございました。
from JDA






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