<新企画>ジャケ買い天国: シリーズ第一弾はマドンナ「ライク・ア・ヴァージン」

はじめに

その昔、まだ音楽ソースがCDではなくレコードという媒体で売られていたころ。
僕らはそのコンテンツそのものよりも、むしろ入れ物であるレコードジャケットにある種の魅力を感じ注目していたことがあった。現在のようにあらゆる手段で試聴が可能な時代ではなかったので、新譜に対する期待は大きいものの、実際の音、いわゆる内容がどんなものかは購入するまでわからないのが当り前の時代。ラジオなどで事前に聞ければラッキーな方で、それでさえアルバムの中の代表曲一曲程度の話である。

そんな不便な時代のアルバム購入術のひとつが「ジャケ買い」だった。多少のギャンブル性はあったものの、「ジャケットが良ければアルバム内容もそれなりだろう」というのがその強引な論法だが、意外と掘り出し物を手にすることも多かったのだ。(都合の悪いことは忘れているのかも)
仲間内では、だれが呼んだのか「ジャケ買い」という用語さえいつの間にか、通用するようになっていた。

目を見張るような美女のジャケット写真に心ときめいたり、シブいモノクロ写真のジャズアルバムに心惹かれ、思わずその場にいた友人からお金を借りて、いわゆる衝動買いをしたことが幾度となくあった。あのころはそれでなくても、30センチ四方の紙ジャケットを片手に繁華街を歩くのはそれだけでステータスだったのだから。ちょっとハイソな趣味のレコードなどは透明なビニールのまま、云わば剥き出しで持って歩いているといったキザなヤツもいた。ただ、心配だったのはレコードを持ったまま満員電車に乗ることだった。実際、そうした状況でレコードが破損したということは僕に限ってはなかったが、そう、あれは青春の大いなる悩みのひとつだったかもしれない。

80年代前半、CDが店頭に出始めたころ、レコードとCDは、古いものと新しいものの代表として、その「良し悪しの論戦」が音楽雑誌を中心に活発に展開されていた。世に云う「アナログ、デジタル論争」である。その時、新参者のCDは完全に不利な状況だった。

CDの最大のセールスポイントである音がクリアというメリットも、アナログ派によって「味気のない音、温もりがない音」として一蹴されたのだ。思えば、あの当時CDのメリットはたくさんあったように思うのだが。たとえば、レコードと違って針が必要ないためランニングコストが掛からないこと。レコードにくらべ小型なので、収納が楽なこと(スペースの有効活用)。資源の面からみても地球にやさしいなどなど。

そんなこんなで、メリットが多いCDでも当初はとても苦戦を強いられた時代があったのだ。その証拠に当時のレコード会社は新譜アルバム発売に際しては、レコードとCDの両方を並行的に生産し、レコードショップでは両者がディスプレーされ販売されていたという時期があり、その状況が何年か続いたという事実からも明らかである。いつの時代も新しいものが世に認められるには、それ相応の時間が掛かるということなのだろう。たとえそれがどんなに優れたものであっても...

あの時、「満員電車に乗っても安心なCD!」なんてキャッチコピーを大々的に展開していたら、そんな苦戦はしなかったのに...」なんて冗談はこの辺にして、話を本題に戻そう。

本末転倒甚だしく、本題が何だったのかさえも忘れてしまった次第。
そう!思い出しました、「ジャケ買い」のお話でした。

このジャケット、当時のレコード派の隠れたセールスポイントになっていたともいえるのである。「味気のない音、温もりがない音」などとCDを罵り、一方「レコードの音には温もりがある、深みがある」などと如何にも正統派染みた理由を掲げていたが、実は30センチ四方の紙ジャケットに魅力を感じ、棄て難いと思っていたファンはレコード派のなかで案外多数派を占めていたのではないだろうか。彼らにしてみると(ぼくも含め)CDの12センチほどのジャケットでは当時としては物足りなかったのである。(綺麗なお姉さんの写真は大きい方が良いに決まっているのだから)

時代が進み、音楽が現在のようにダウンロードで買うという形態をとると、さて、そんな悠長なことも言ってられない状況になってきたようだ。「小さくてもいい、アルバムジャケットはあって欲しい」という悲痛な叫びが聞こえてきそうだ。実は僕の叫びなのだが...

そんな訳で僕にとって、とっても大切なジャケット。これまでのレコード、CDのコレクション人生をふり返り、心に残るジャケット、衝撃のジャケットなど、そうした「ジャケ買い」を通じたアルバムとの出逢い、エピソードをこのシリーズの中で紹介していこうと思う。勿論、アルバムに関するコメントも添えていきたいと思う。
その記念すべき第一回目はマドンナ「ライク・ア・ヴァージン」Madonna  Like A Virgine

ジャケ買い天国

001_マドンナ「ライク・ア・ヴァージン」 Madonna ... Like A Virgine

Madonna ... Like A Virgine
 「Like A Virgine」ジャケット表面

横浜元町入口の交差点一画にあった「Tower Records」でレコード盤の時代に購入。
付いていたプライスラベルから当時の値段は
1980円、輸入盤である。
このアルバムのリリースが1984年11月だから、恐らく1985年ころのことだろう。

「バーニング・アップ」に続く、彼女としては2枚目のスタジオ録音アルバム。
ウィキペディアによれば、
デビュー作『バーニング・アップ』ではまだアンダーグラウンドなディスコ・ガールのイメージだったマドンナを、ニューヨーク的なシティ・ガールのイメージに変えた。とあるように、このアルバムをキッカケに彼女は大ブレークする。

正直、デビュー盤「バーニング・アップ」のジャケットではこれ以降の彼女の成功は望めなかっただろう。どんなに才能があっても、どんなに素晴らしいアルバムを制作しても世にアピールする何かとキッカケがなければ、ただのアルバムとして埋もれたままである。但し、優れた才能の持ち主で本物のアルバムを作っていれば、時間の経過とともにやがては陽の目を見るのだろうが...

ジャケットの強烈な個性とインパクトでこのアルバムは当然のこととして、当時のチャートを賑わしセールスともども爆発的なヒットとなったが、このアルバムのもう一つの魅力はアルバムタイトル曲のほか「マテリアル・ガール」など収録楽曲が充実していたことがあげられる。
また、 「Like A Virgine」という過激なアルバムタイトルも宣伝効果としては抜群で、更なる追い風になったはずだ。
その意味では名実ともに最高のアルバムであり、「ジャケ買い」としては文句なしの大成功といえる。

 「Like A Virgine」ジャケット裏面
今でこそ過激なジャケットは当り前だが、当時は悩殺ものである。
こんなジャケット見て買わずにいられますか?



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本文中の引用について:
* 「ライク・ア・ヴァージン」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』2013年3月20日 (水) 06:18
UTC、URL:http://ja.wikipedia.org

このシリーズの文章について:
主語をどうするかという点でかなり迷ったが、このシリーズに関しては「僕」で通すことにした。
「私」では内容に対して幾分かしこまっていると思ったことと、何より「上から目線」的に思えたからである。

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