音楽聴きくらべ_006「Europa 哀愁のヨーロッパ」
課題曲
#006 Europa 哀愁のヨーロッパ
Words & Music by SANTANA CARLOS & COSTER TOM
誰にも「ごひいきミュージシャン」はいるはず。
私の場合、洋楽ではサンタナ、邦楽では荒井由実(のち松任谷由実)と高中正義だった。
遠い昔、青春時代のことである。
彼らのアルバムが発売されると、すべてのレコードをコレクションしなければという奇妙な義務感(?)からか、収録曲がどうであれ、取りあえず何が何でも彼らの新譜を購入したものである。
当時は今のように購入前にアルバムを試聴することなどできなかったから、
三千円ほどの出費はかなりの冒険であり、一種の賭けのようなものだったと思う。
だが、僅かな小遣いの中からの三千円出費はかなり厳しかったが、それでも決して欠かすことはな かった。
この宗教染みた(彼らのアルバムを買い続けるという)慣習は、レコードからCDの時代に移っても 変わることはなかった。
さすがに松任谷由実と高中正義については、何年も前にこの不思議な慣習(?)から卒業したが、
サンタナについては今でも細々と続いている。
今思うと、こうした慣習は幾分滑稽だが、彼らの新譜アルバムには
必ず一曲二曲は思いもよらぬ傑作ナンバーが収録されていて、当時はそれが楽しみだったのだ。
そのほとんどは期待を裏切らなかったが、
松任谷由実には稀に期待外れのアルバムもあった。
だが、一番大切なのはコレクションに欠番を作らないことで、
当時としては期待外れでもあまり気にならなかった。
そんな訳で、今回はサンタナの1976年に発表された 大ヒットナンバーの「Europa 邦題(哀愁のヨーロッパ)」を紹介する。
邦題の通り、哀愁を帯びたその旋律は、日本人が最も好みとするメロディーではないかと思う。この曲をアルバムで採用したミュージシャンは、調べてみると、
そのことはこの曲が多くの人に親しまれ、魅力のある曲である証であろう。
サンタナというバンドを初めて知ったのはラジオから流れていた彼らのナンバー「Oye Como Va 邦題(僕のリズムを聴いとくれ)」を聞いたときだった。
確かにこれまでにない独特のリズムとラテンの香りがするサウンドは、当時のロックとしては新鮮だったが、私は正直それ程のインパクトは感じなかった。
それよりも、その後に知ったグレック・ローリーの歌う「ブラック・マジック・ウーマン」の方が格好良かったし強烈なインパクトがあったように思う。
音楽を聴いて格好イイと感じたのはその時が初めてだ。
その後、「君に捧げるサンバ」の官能的なギターも最高で、完全にサンタナ・マジックの虜になってしまった。
これら三つのナンバーはすべて彼らのセカンド・アルバム「Abraxas 天の守護神 (1970)」に収録されている。
このアルバムはジャケットデザインもさることながら、神秘性に富んだスケールの大きいアルバムであり、ロック史に残る重要なアルバムとして評価が高い。
アルバム「Abraxas 天の守護神」 |
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デビュー当時のバンド「サンタナ」はカルロス・サンタナの泣きのギターを中心として、以下の最強メンバーを擁し、それ以後、途轍もないグループへと成長しようとしていた。
デビュー当時のメンバー
カルロス・サンタナ(ギター)
グレッグ・ローリー(キーボード、リード・ボーカル)
デイヴ・ブラウン(ベース)
マイク・シュリーブ(ドラムス)
ホセ・チェピート・アリアス(パーカッション)
マイケル・カラベロ(パーカッション)
その後、彼らはご存じの通り「サンタナⅢ」「キャラバンサライ」と次々にビッグヒットアルバムを発表し、彼らの未来は前途洋々かに思えたが、残念なことにデビュー時のメンバー構成がそのまま長続きすることはなかった。
サンタナ自身の特定宗教への傾倒や相次ぐメンバー交代などが影響してか、
その後に発表されたアルバムは以前ほどの勢いはなく、アルバムセールスは下降線を辿っていった。
6番目のアルバムに「不死蝶」のタイトルがついたアルバムがあるが、
彼らの意図としては恐らく「不死鳥」のごとく蘇える」を思い描いていたのだろうが、皮肉なことにそのアルバムは彼らの思惑通りにはいかなかった。
そうした苦難の状況下で、起死回生のビックヒットとなったのが、今回紹介するナンバー「Europa 哀愁のヨーロッパ」だ。
このナンバーが収録されたアルバム「Amigos アミーゴ」は、彼らのスタジオ録音としては7番目のアルバムだが、この「Europa 哀愁のヨーロッパ」の世界的シングルヒットで彼らは見事に再生を果たすのである。
今から35年前、1976年のことである。
蛇足だが、それから数年して日本では上田正樹が「悲しい色やね」(私の数少ないカラオケレパートリー)という演歌風ポップスをヒットさせたが、
この出だしのメロディーが「哀愁のヨーロッパ」に酷似していると思っているのは私だけだろうか?
<収録アルバム紹介>
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Amigos アミーゴ (1976) |
SANTANA サンタナ
Europa 哀愁のヨーロッパ
演奏時間 5:03
サンタナのスタジオ録音としては7番目のアルバム。
購入は勿論LPレコードの時代だったが、初めて針を落としこのメロディーを聴いたときのことは今でも忘れられない。
購入前にラジオ等で何度か聴いていたが、自身のステレオから流れ出る「哀愁のヨーロッパ」のサウンドに何故か改めて感激したことを覚えている。
最近は、こうしたトキメキを感じさせるナンバーが少なくなったように思えてちょぴり寂しい気がする。
まえにもどこかで書いたと思うが、「名曲」というのは初めて聴いた時でも、以前どこかで聞いたような親近感と郷愁を私たちに感じさせるように思うのだが、このナンバーはまさにその典型である。
サンタナの泣きのギターもこのナンバーが成功した要因のひとつとして欠かすことはできない。
今回改めて、各「哀愁のヨーロッパ」を聴いてみたが、やはりサンタナのオリジナルは本家として他を寄せつけない異彩を放っているように感じた。
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From Me To You (1991) |
TOM COSTER トム・コスター
Europa 哀愁のヨーロッパ
演奏時間 6:09
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「哀愁のヨーロッパ」はカルロス・サンタナとこのトム・コスターの共作だが、この曲が収録されているアルバム「Amigos アミーゴ」はそんな彼が1972年から1978年までサンタナ・バンドに在籍していた時のものだ。
今回紹介するこのアルバムは、そんな彼がサンタナを離れ、当時次世代の音楽として脚光を浴び始めた、ジャズと双璧をなす「フュージョン」の世界で活躍していたころのものだ。
1991年のリリースというから、サンタナを離脱して13年経っての自らのナンバーを自らの手によって自由に手掛けたことになる。
この場合、サンタナの「Europa 哀愁のヨーロッパ」をリメイクしたというのか、そんなことはどうでもいいが、作品の出来はひと言で言って完成度が高い。
キーボード奏者として、「この曲はこうあるべき」とあたかも主張しているかの、長年の思いが込められた作品ではないかと思う。
他の比較アルバムのナンバーに比べ、一際豪華で煌びやかな作品に仕上がっている。
かつて、ジム・ホールがロドリーゴの名曲「アランフェス協奏曲」をアルバム「CONCIERTO」で採り上げ、それを聴いた時はアレンジの見事さに、別物の「アランフェス協奏曲」として感動したが、その時と同等の感動を味わったように思う。
そのアルバム「CONCIERTO」は今尚名盤として評価が高いが、このトム・コスターの「From Me To You」もそれに匹敵する息の長い傑作アルバムだと思う。
ジム・ホールの「アランフェス協奏曲」が入ったアルバム
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Love Warriors (1989) |
TUCK & PATTI タック・アンド・パティー
Europa 哀愁のヨーロッパ
演奏時間 5:05
PATTI CATHCART パティ・キャスカート : Vocals
TUCK ANDRESS タック・アンドレス: Guitar
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TUCK & PATTIは1988年のデビュー以来、地道な活動を続けていて一見マニアックな夫婦デュオに思えるが、その人気は圧倒的で根強いものがある。パティ・キャスカートのボーカル、タック・アンドレスのギターと最少ユニットから放たれるサウンドは信じ難いほど多彩で奥行きを感じる。
彼らの音楽はジャズがベースになっているが、タックの超絶ギターとソウルフルなパティのボーカルから生み出される各ナンバーは、ハートフルで彼らならではの独特の世界を造りだしている。
アルバム内の「哀愁のヨーロッパ」に限って言えば、タック・アンドレスのソロ演奏だが、彼のギターテクニックを思う存分堪能できる。
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European Jazz Trio featuring Jesse van Ruller (2000) |
European Jazz Trio ヨーロピアン・ジャズ・トリオ
Europa 哀愁のヨーロッパ
演奏時間 8:07
Marc van Roon マーク・ヴァン・ローン : Piano
Frans van der Hoeven フランス・ホーヴァン : Bass
Roy Dackus ロイ・ダッカス : Drums
GUEST
Jesse van Ruller ジェシ・ヴァン・ルーラー : Guitar
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今回の「Europa 哀愁のヨーロッパ」のようなナンバーはヨーロピアン・ジャズ・トリオが最も好む、得意の曲調だろう。
それは、なんと言っても彼らの音楽における基本的スタンスがメロディー重視にあるからと思うからだ。
それは、ピアノのマーク・ヴァン・ローンの前任だったカレル・ボエニーの時代から変わっていない、このトリオの最大の魅力でもある。
このナンバーではギターのジェシ・ヴァン・ルーラーをフューチャーし、トリオの時とは一味違う雰囲気を醸し出している。
じっくりと聴き入ってしまう8分07秒である。
この他、アート・ファーマーやチャーリー・マリアーノなどの旬のゲストをフューチャーし、時代時代をキャッチャーに捉えているところなどは、さすが1984年の結成以来、変わらぬ人気を維持できている要因のひとつであろう。
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In The Name of Love (1997) |
HAPA ハパ
Europa 哀愁のヨーロッパ
演奏時間 5:02
KELI'I KANEALI'I ケリイ・ホオマル・カネアリイ :Vocals,Guitar
BARRY FLANAGAN バリー・フラナガン :Guitar
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ハワイアン・コンテポラリーの雄、ハパのサード・アルバム。
このアルバムはデビュー当時のメンバーのデュオで、主にボーカル担当のKELI'I KANEALI'I(ケリイ・ホオマル・カネアリイ)とスラック・キーギターのBARRY FLANAGAN(バリー・フラナガン)で構成されている。
本来、この「Europa 哀愁のヨーロッパ」をレパートリーにするということは、自らのテクニックを多少なりとも誇示したいというミュージシャンの意図があってのことだろうが、彼らは敢えてその途は取らず、しっとりと丁寧に演奏しているという印象を受けた。
テクニックあってこその、彼らなりの余裕なのだろうか。
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PURE HEART (1998) |
PURE HEART ピュア・ハート
Europa 哀愁のヨーロッパ
演奏時間 4:20
Lopaka Colon ロパカ・コロン : Percussion
Jake Shimabukuro ジェイク・シマブクロ : Ukulele,Guitar
Jon Yamasato ジョン・ヤマサト : Vocals,Bass Guitar
ハワイの天才ウクレレ奏者、ジェイク・シマブクロが今はなき伝説的グループ「ピュア・ハート」に在籍していたころのアルバム。
1998年のリリースだから、もう早いもので13年の歳月が経過。
メンバーの三人はそれぞれ個性あるテクニシャンだが、なかでもウクレレ奏者ジェイクのその才能と音楽に対する情熱はやはり突出していたのだろう。
グループ「ピュア・ハート」は約2年間という短命のグループで、この後セカンドアルバムを出し解散する。
2枚のアルバムはナ・ホク・ハノハノ・アワード(ハワイのグラミー賞にあたる)で新人賞はじめ数々の輝かしい賞を受賞する。
このようにグループ「ピュア・ハート」は惜しまれつつ解散に至るが、その後ジェイクは一時、「コロン」というグループを結成するが、これもまた短命に終わる。
こうして2002年にようやく彼は、ソロミュージシャンとしてのスタートをきることになる。
話は多少横路に逸れるが、多くのソロ・ミュージシャンの経歴を知ると、そこには一つの運命づけられた一種の法則のようなものが必ずあるように思えてならない。
並外れた才能があってのことなのだろうが、その過程には苦難、歓喜、悲哀、葛藤といった各シチュエーションがあって、ほんの一部の選ばれし者のみが最終的に栄光を勝ち取るという法則。
話を元に戻すとして、ここでのジェイクのプレーは素晴らしいと思う。
彼のウクレレテクニックはこの時点で既に完成の域に達していたようである。
テクニック面だけの比較なら、今回紹介している中で一二の実力ではないかと思う。
ただ、最近のジェイクの音楽姿勢に対しては頭を傾げたくなる点もあり、
正直なところ私としては多少不満である。
端的にいえば、ハワイのミュージシャンにしては幾分商業主義に奔り過ぎているのでは、ということである。
確固たる実力の持ち主であるが故に、音楽的方向性はどうあれ、焦らずじっくりとハワイアン・ミュージックの未来を担っていってほしいと思う。
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Loco princess (2005) |
Taimane Gardner タイマネ・ガードナー
Europa 哀愁のヨーロッパ
演奏時間 4:45
CDジャケットの少女を侮ることなかれ、彼女のウクレレテクニックは外見からは想像できないほどの確かなものである。
アルバム発売時は16才というから、その実力は驚異的である。
今回ラインナップ中では女性奏者のものは彼女だけだが、引けを取っているとは到底思えない内容である。
テンポはかなり軽快で、彼女は嫌がるかもしれないがジェイクを彷彿させるところもチラホラ。
ただ、すべてを比較して聴いてみると、ウケレレの音色はやはり女性らしく、柔らかで優しい。
でももしかして、それは、演奏者が女性と知った上での、私の勝手な結果論に過ぎないのかもしれないので、気にしないでいただきたい。
いずれにしても、彼女のテクニックは本物です。
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AQUAPLANET (1993) |
Europa 哀愁のヨーロッパ
演奏時間 4:32
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かつて、夏と言えば、「タカナカ」という時代があった。
そんな彼の活動も暫くは表面に出ない時期もあり、気になっていたが、最近また定期的にアルバムの発表などもしており健在のようで安心した。
なにしろ、高中正義は冒頭にも書いた通り「ごひいきミュージシャン」のひとりなのだから。
1993年にリリースされたこのアルバム「AQUAPLANET アクアプラネット」は、果たして彼にとっての何枚目のアルバムになるのだろうか。
あまりのアルバム数に正直、整理できない状況である。
輝かしい彼のミュージシャンとしての経歴からすると、彼の全盛期を指定することは極めて難しいことだが、仮に「T-WAVE」「虹伝説/THE RAINBOW GOBLINS」「ALONE」などが発表された1980年代前後を全盛期とした場合、このアルバム「AQUAPLANET アクアプラネット」はそれから10年以上が経ったことになる。
そして、現在(2011年)から考えるとまた20年近くの歳月が経過したことになる。
それでも、われわれの年代が聴けば、そのサウンドはあの頃の高中正義に変わりはないと思う、あるいは思いたいのである。
果たして今の若い人たちが、タカナカのサウンドを聴いたらどう思うのか興味深いところだが、
やはりオジサンのサウンドと思われてしまうのだろうか。
さて、前置きが長くなったが、「アクアプラネット」に収録された「Europa 哀愁のヨーロッパ」の感想に入ろう。
端的に言って、サンタナのそれとは真っ向勝負を避けた演奏に思える。
曲のアレンジも、今回ラインナップした中では、サンタナのオリジナル演奏から一番崩したアレンジになっていて曲の雰囲気はまったく別物である。
全盛期、あるいは初期の高中正義であったら、恐らく真っ向勝負のプレーを披露してくれたように思うが、そこは年月の経過とともに大人の対応を見せてもらった観がある。
先述したように、初期、全盛期と彼のアルバムをコレクションしてきたが、その大半はLPレコードである。
残念ながら現在、我家にはレコードプレーヤーがない。
こうして、いろいろのことを書いていたら、そのころの「タカナカ」を無性に聴きたくなった。
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