2013年4月5日金曜日

本の紹介:ドラッカーとオーケストラの組織論  山岸淳子著 PHP新書

PHP新書
820円+税


一時の熱狂ぶりは去ったようだが、その後あの「ドラッカー」ブームはどうなったのだろう。自身もテレビやネットでその盛り上がりは知っていたが、時代に取り残されない程度にと、当時密かに購入したのが上田惇生著「ドラッカー入門」だった。これはドラッカー自身の著書ではなく、わたしのようなミーハー向けのドラッカーの決定版入門書である。手っ取り早くドラッカー云々を語れればいいと、そんな不純な動機から手にしたのだが、経営論だマネージメントだのとまったく私にはピンとこない。私の領域ではないなとすぐ気付いた。その時はそうは思いつつも最後まで読破したが、只々活字を追っているだけのようで頭の中には何も残らなかったというのが正直なところ。
さすがドラッカー、入門書とは言え手強かった。


そんなドラッカーとの出会いから数年が経った今、どうしてまたドラッカーに関係する書籍を懲りもせず買ったのか。答えは単純である。「ドラッカーとオーケストラの組織論」というタイトルに惹かれたからである。ドラッカーとオーケストラ、言い換えれば「ドラッカーと音楽」という意外な組み合わせと、著者である山岸淳子さんの略歴を読み興味を持ったからだ。

著者は東京芸術大学音楽学部を卒業後、日本フィルハーモニー交響楽団に入団し、広報宣伝部長、企画制作部長等を経て、現在は特命担当とのこと。著者がオーケストラ内の実際の演奏者ではなく、楽団を如何に運営、発展させて行くかという立場であることで、本のタイトルがようやく理解できた次第である。

この本を読むまで最も意外だったドラッカーと音楽との関係は、読み進むにつれむしろ濃厚であったことに驚かされる。実際、彼は音楽を愛していたし、彼の経営論に関する著作の中で、オーケストラを例えにして組織論を述べているケースが多々あるという。

ダイヤモンド社
1600円+税
彼が音楽の都ウィーン生まれであったこと。また、これはあまり知られていないことだが、彼のおばあさんはあのクララ・シューマンの教え子で、幼少の頃ドラッカーはそのおばあさんからピアノを習っていたという。更に70歳を過ぎた頃、彼は小説を書いているが、そのタイトルが「最後の四重奏」ということで、そのことからも彼が生涯にわたって強く音楽を意識していたことがわかる。この小説は音楽を扱った内容というよりは、小説の組み立て方が音楽的ということで、楽章分けされた交響曲のような作品だという。ひとつのまとまった形での「音楽論」という著作は彼にはないようだが、もしあったとしたら小説ともども是非読んでみたいものである。

ところで、この本はオーケストラの実情、とりわけ指揮者とオーケストラとの関係、それに個々の演奏者を加えた三角関係、財政の問題、社会的役割の問題などを、日本のオーケストラをはじめ世界的名門オーケストラの多くの例を挙げて語られている。クラシック音楽が大好きな私としてはそうしたオーケストラの内幕が垣間見れてとても興味深かったが、著者がこの本の中で訴えたい主題はそこではない。

ドラッカーは企業をはじめとした組織マネージメントで知られているが、マネージメントは利益を追求する企業よりも「非営利組織」にこそ必要なのだと説いている。(この点は特に意外性があって興味深かったが、ちなみにこの本を読んでいると、こうした意外なことにたくさん出会えて楽しい)
だが「非営利組織」のマネージメントは難しいという。その理由は「非営利組織」には企業のように収益という共通基準がないからだ。しかしながら、ドラッカーはその「非営利組織」のマネージメントには企業が学ぶ点が多いと指摘している。オーケストラが「非営利組織」の代表格と考えれば、著者のドラッカーとオーケストラを結びつける意図は見えてくる。ドラッカーを参考にしない手はないはずだ。

近年、財政面でその存続が危ぶまれているオーケストラは珍しくない。
名門オーケストラでさえその例外ではないという。
こうしたオーケストラの危機を克服し、維持・発展させていくにはどうしたらいいのか。またオーケストラという組織の将来における社会的位置づけ、将来的役割はどうあるべきか。音楽を愛し、オーケストラを愛する著者の情熱と切実な訴えが今にも聞こえてきそうなそんな一冊である。

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